えむこの雑記帳 ~ときどきひとり言~

これは、脳出血後たくさんの後遺症が残ってしまった夫とえむこの何気ない日常生活を書き留めたものです。

会いに行こうかな

夫が脳出血で倒れ、約半年間の入院を経て退院したのは2011年4月5日のこと。それから半年間、訪問リハビリと訪問入浴のサービスを受けながら自宅のみで介護をしていました。

退院したばかり頃は庭先に出ることも嫌がり、道路まで出ることができるようになるまでにはかなりの時間がかかりました。そして、必要があって車に乗れば、酔ってすぐに嘔吐するような状態でしたから、ほとんど家の中で過ごしていました。

倒れる前には運転もしていたし、車酔いをするようなことはなかったのですけどね。だから、車に乗るのは必要最小限の生活でした。

それがどういうわけか、車酔いが続いていたにもかかわらず、7月頃から急に車に乗りたがるようになったのです。

しかも、昼食を食べるとすぐ。夫は玄関に行き「外を指さして外出する」と意思表示をするようになりました。

倒れる前は殆ど怒ることがなかった人ですが、私が「行かない」と言うと、時計を見てはものすごい形相で怒り始めるのです。しかも、玄関の段差に車いすから足を投げ出し、危険極まりない状態に自分の身を持っていき、まるで何かに取りつかれたように訴えるのです。最後は男泣きしそうなぐらいで・・・

それが7月・8月・9月の暑い時期に、しかも毎日続きました。

私が根負けして、外出の準備をすると、夫は必ず車庫に行くよう指で指図をするのです。

失語症というものはかなり厄介で、夫はどこに行きたいのか話すことも、文字で書くこともできないので、私には夫がどこに行きたいのか見当もつきません。

だから、車に乗ってから、夫の指図どおりに運転するのです。

すると、行先はいつも同じで、国道1号線に入り岡崎方面に向かうように指で指図するのです。そして、最終的には岡崎に住むHさん宅の前まで。

Hさんは夫の高校の同級生であり、同業者。私もHさんだけでなく奥さんのK代さんもよく知っていて、何度もお宅に伺ったことがあります。夫は同級生の中でもHさんご夫婦に会うと、いつもいい刺激を受けるから好きなのだと思います。Hさんと2人で話し始めたら止まらないぐらいよく話していたのです。仕事のことはもちろんだけど、生活のことまでも。

 

始めのうちは駐車場に着くと、そこから電話をして、Hさんが在宅ならば外に出てきてもらいました。

1時間強の距離なのに、1週間に2~3回ぐらい行くのです。そのうち、夫はHさんの家の前まで私に運転させて行っても、「ここじゃあない・・・」と首を傾げ、電話をさせないようになりました。そんな日には岡崎の町をぐるぐる運転させたり、市営の駐車場に車を入れさせ、車いすであちこち行かせるのです。まるで、自分がどこに行きたかったのか探しているみたいに。

そんなことが3ケ月程続き、その後はピタッと「岡崎に行け」とは言わなくなりました。

未だにあれは何だったのか分からないけれど、きっと自分の記憶の糸を手繰り寄せ、自分の中でさまよっていたのでしょうね。

 

夫が倒れた時、実はHさんには連絡していませんでした。Hさんは仕事が急激に少なくなったことや、子どもさん達の成長によってか、うつ状態になっていたのです。それで、奥さんのK代さんが夫に話し相手になってもらおうと電話をくれたのです。私はもう黙っていられなくなり、その時に夫のことを話しました。夫は失語症という後遺症が残ってしまったので、Hさんの役には立たなくなってしまったからね。

K代さんはご自身のお母さんが12年前に同じ病気で右半身不随になられ、今も介護をしてみえるのです。だから、反対にアドバイスをしてくれたり、こちらが電話した時にはいつでも顔を見せてくれるのです。そして、今はHさんのところに行くことはなくなたので、反対にHさんたちがこちらに来た時には顔を見せてくれるのです。

 あの頃からもう2年。

実は一昨日、久しぶりにK代さんから電話があったのです。

夫のようすを聞き、世間話をしたのですが・・・

Hさんご夫婦の娘さん(3姉妹の長女)がアメリカの方と結婚することになり、ビザが下り次第アメリカに行ってしまうそうなのです。

それで、久しぶりに電話をしてくれたのは「Hさんのようすが・・・」ということだったのでしょうか。そうは言わなかったけれど・・・

何だか気になってきたのです。だって、Hさん自身から電話があったわけではなく、夫の友人の奥さんであるK代さんからの電話だったのだから。

今、岡崎市美術館では「きらめく日本画ー大観・栖鳳から現代まで」という展覧会を開催中だから、夫を美術展に誘って、Hさんにも会いに行ってこようかしら。

会いに行くということは夫にとってもいい刺激になるだろうし、もしもHさんが想像している状態ならば、Hさんにとってもいいかもしれないから。もしも違っていたとしてもね。