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えむこの雑記帳 ~ときどきひとり言~

これは、脳出血後たくさんの後遺症が残ってしまった夫とえむこの何気ない日常生活を書き留めたものです。

母を偲ぶ日

家族

今日は母の誕生日。

生きていれば93歳。数えても仕方がないと思いながらも、毎年数えてしまいます。

 

「誕生日は母に感謝する日」と言ったのは淀川長治さん。自分の誕生日は母が大変な思いをして生んでくれたのだから母に感謝するのだと。そして、その言葉を聞いた永六輔さんが、ラジオで「良い話しだから何度でも話します」と言い、淀川長治さんからその言葉を聞いた時のことを何度も話しています。

だけど、母の誕生日には「母さんがいたから、今私がここに存在している」と感謝しながら、母を偲びたいと思います。

でも、25歳になったばかりの娘は、思い出はたくさんあっても、案外母親のことを知らないのです。

母は52歳の時、胃がんと診断され、54歳になったばかりで亡くなりました。

52歳のある夜、母が「真っ黒い便が出た・・・」と言いました。その当時、我家は父と祖母と私の3人暮らし。兄と弟は家から出てそれぞれ遠方で一人暮らしをしていました。

「真っ黒い便が出た? それは胃からの出血? ひょっとしたら・・・」と、胃がんではないかという不安がよぎりました。

そしてその夜中、ドーンという大きな音で目覚めると、廊下で母が意識がない状態で倒れていました。

普通ならばすぐに救急車を呼ぶところでしょうが、意識を取り戻した母に「明日、病院に行こうね」と言い、土色の顔色をした母を休ませました。

翌日、私が勤めていた病院を受診すると、すぐに胃透視をしました。即入院にはならず、医師はその画像を見て、私にだけやんわりと「ここの場所はあんまりいいものではないことが多い」と告げ、胃カメラの予約を取りました。

結果は胃がん。

当時、本人には告知をしない時代でした。告知するのは夫か息子。女性は顔に出るからという理由で娘に話すことはありませんでした。

でも、私が看護師だったことから告知は全て私に。だから、私から父や兄、弟に話さなければならなかったのです。20代の私にはとても辛い日々の始まりでした。

今では本人に告知し、本人が自己決定をする時代です。未告知だと抗がん剤の治療はできませんから。

だけど、当時は殆ど本人に告知はしませんでした。癌は不治の病で「癌だと告知することは死を告知するのと同じこと」と考えられていたから。だから、我家の場合も嘘に嘘を積み重ね、毎日嘘で塗り固めていたのです。

母には大きな潰瘍だと言って、胃の全摘術を受けました。

告知していないから、母は退院すると養生という言葉は無縁の世界で、とにかく働きました。

家事は私がするからと言っても私より先にしてしまい、働かないと収入につながらないからと仕事をし、愚痴も、文句も、辛いと言うこともなく、家事も仕事もやってのけたのです。

だけど、それから1年ちょっとで再発しました。

愚痴も、文句も、辛いと言うこともなかった母だけど、一度だけ父に対する不満を言ったことがあるのです。

父は毎日病院に母の顔を見に行っていました。でも、母は顔を見ているだけで何にもしてくれない夫に不満だったようです。

私には父が毎日病院の母のもとに行くことは父の優しさだと映っていたけれど、母は夫に対してもっと何かをして欲しかったのかもしれません。

後に看護師の先輩が癌になり、入院生活をしていた時にご主人が「何にもしてくれなかった」と、離婚話になったぐらいだから。

あの時の母の気持ち、私には分かってあげられませんでした。

 

そして、54歳の誕生日。母は病院で過ごしていました。

告知はしていなかったし、嘘を吐き通していたけれど、母は私に「もう家に帰れないかもしれない・・・」と呟きました。それでも、嘘を吐き通しました。でも、それでよかったのかと今でも考えることがあるのです。

もしも、告知していたら・・・

手術をして一旦退院した後、母の場合、再発することは分かっていました。実際にはそれまで1年ぐらいあったのだけれど、その間にやっておきたいことがあったのではないか。伝えたいことがあったのではないか。再発ならば、入院しないで家で過ごしたかったのではないか。告知しないのが常識の時代だったとはいえ、ホントにそれでよかったのかと、今でも思います。

母は胃がんになる前には「私は幸せだと思うよ・・・」と言っていました。だけど、旅行に行くこともなく、働き通しだった母の楽しみは何だったのだろうか、ホントに幸せだったのだろうかと、聞いてみたいのです。

まあ「幸せだと思うよ・・・」と言ったんだから、幸せだったと思っておけばいいのでしょうが。

母が亡くなった年をはるかに超えた今、若くして亡くなった母の気持ちをついつい考えてしまうのです。