えむこの雑記帳 ~ときどきひとり言~

これは、脳出血後たくさんの後遺症が残ってしまった夫とえむこの何気ない日常生活を書き留めたものです。

母はいつだってそばにいる

昭和30年代のこと。全国ネットで「おかあさん」というテレビドラマが放送されていた。確か、何年も続いた一話完結のドラマだったと思うけれど、内容までははっきりと覚えていない。ただ、冒頭でサトウハチローさんが書いた おかあさんをテーマにした詩が画面に現れ、誰かが朗読していたことだけは鮮明に覚えている。誰が朗読していたのかは記憶にないのだけれど。

ドラマの内容もよかったのだと思う。だけど、私はそれより毎週朗読されるお母さんへの想いをうたった心温まる詩を聞くのが大好きで、とても楽しみにしていた。

最近、ネットでそのドラマが昭和38年7月まで放送されていたと知った。そして昭和38年8月20日にサトウハチローさんの詩集「おかあさん」が発行されていた。

当時私は中学生。ものすごくその詩集が欲しかったけれど、私には高くて手が届かなかった。で、就職してお給料をもらうようになってから、私は念願だったその詩集を手に入れた。 

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箱に入った3冊の詩集。昭和49年当時1650円だった。給料をもらうようになったとはいえ、私にとっては大枚はたいて買ったのだ。

当時、母がまだ健在だったからか、何度も何度も夢中になって読み返したような記憶がある。だけど、それから数年後に母が亡くなり、それからかなり長い間、私はこの詩集を開くことができなくなってしまった。

そして長いこと母のことを引きずって生きてきたけれど、やっと最近、手に取って読むことができるようになったのだ。

 

いつも呼ぶ母が呼ぶ            サトウハチロー

                 

私を呼ぶ 私を呼ぶ  いつも呼ぶ 母が呼ぶ

風が吹く

枝から枯葉がはなれて  風といっしょにわたしの足もとにころがってくる

その枯葉に母がいる  小声で何かわたしにいって又ころがって行く

 

街で買い物かごを下げた ちいさいちいさいどこかのおばさんをみる

そのうしろ姿に母がいる 

 買物かごの中に卵が見える  わたしは卵の好きな子供だった

母が又わたしを呼んだのだ 呼んだのだ

 

雨が降る こまかいこまかい雨だ  こまかい雨にはミシンの音がある

雨が少しやむと 空気がためいきみたいにひろがる

ミシンの音にもためいきにも母がいる

わたしを呼ぶ わたしを呼ぶ  いつも呼ぶ 母が呼ぶ

 

誰かがおんぶされて行くねんねこばんてんの  ビロードのえりに母がいる

みかんのおへそのギザギザに母がいる

古いピアノのうるしのくもりにもいる

ハサミで切りとった爪の そりかえったとんがりにも  母がとまってる

ほぐれたジャケットのそで口  おふろのばの焚口の灰  マッチのもえさし・・・・・・

どんなところにも母がいる

 

わたしを呼ぶ わたしを呼ぶ  いつも呼ぶ 母が呼ぶ

わたしはその母に 昔と同じようにぴょこんとおじぎだけする

何かいうと母が まつ毛をぬらしそうだからだ

 

わたしを呼ぶ どうやらいまも呼んでいるらしい

 

今日は母の誕生日。

生きていれば94歳だ。亡くなった人の年を数えても仕方がないと思いながらも、今年もまた数えてしまった。今の私よりずっと若く、54歳になったばかりで止まったままの母を偲んで、今日はお墓参りに行ってきた。

 

いつだって、どんなところにだって、私のそばに母はいるのだ。

今はそんな風に思いながら、母のことを偲んでいる。