前にも書いたけれど、夫は脳出血の後、たくさんの後遺症が残ってしまったのね。
その中の一つが失語症。
失語症って一言で言っても、脳が損傷を受けた部位や程度によっていろんなタイプがあるのです。
例えば、運動性の失語症・感覚性の失語症・混合性の失語症・全失語、というようにね。
そして、言語には、聞く・話す・読む・書く・計算するという要素があって、失語症のタイプによって、できる部分とできない部分が違うのです。
だから、「脳出血の後遺症による失語症」と言っても、みんな同じではないのですよね。
そして、夫の失語症は、どうも運動性の失語症みたい。
「どうも・・・みたい・・・」と書いたのは、医師から夫の失語症について細かい説明を受けたわけではないので、えむこが夫の症状からそう思っているのです。
運動性の失語症は、大脳の発語に必要な筋を支配する言語中枢の損傷によるものなのね。
つまり、言葉を作る部分、話す命令を出す部分の損傷なのです。
だから、他人が話すことは理解できるし、活字を読むこともできるけど、自分の思っていることを言葉で表現することができないのです。書く方も、大分、障害があるのです。
実際に夫は新聞や本、友人からのメールは読むことができるみたい。これは読んでいる時の反応からそう思うのね。
だけど、話す方は「お・ん・なん・なん・なん・・・・」としか言えないのです。だから、発声できるのは「お」と「な」と「ん」だけ。その発声の強弱、スピード、表情で言いたいことを伝えようとしているのです。
退院したばかりの時には、一音の発声すらできなかったのだから、それでも少しはよくなっているのですよ。
この障害は結構大変でね。
えむこは夫の言いたいことを分かってあげたいけど、分からない。
夫は自分が言ってることを理解してもらえないでしょ。
人は「文字盤を使ってみたら。」とか「書いて伝えられないの?」なんていうけど、とにかく「言葉で表現ができない」タイプなので、そういった事はできないのです。
実は今日。
デイケアに出かける時、夫が玄関を指さし「お・ん・なん・なん・なん・・・・」って、一生懸命、えむこに訴えたの。
えむこはその意味がさっぱり分からなくてね。結局、夫はあきらめてデイケアに出かけたのです。
だけど、出かけたすぐ後にえむこは夫が何を言いたかったのか気が付いたのです。
夫はね。病気になってから、車の排気ガスの臭いがすごく嫌みたいで、車に乗る時には、いつも、マスクをつけていたのです。
だから、「出かける時にはマスクを忘れないように」と、マスクの定位置を下駄箱の上にしてあったのです。それで、玄関を指さし「マスクをとって」って言いたかったのでした。
なんだか、夫に悪くて、悪くて、辛くなっちゃってね。帰って来る時にも我慢させるのは気の毒だったので、えむこ、デイケアまで届けに行っちゃいました。
たかがマスク、されどマスク・・・ だものね。
だけど最近、夫とのコミュニケーションで進歩があったのですよ。
その1
夫はどうしても床屋さんに行きたかった。だけど、えむこがわからない。そんな時に左手を頭に持っていき、「チョキ」をしたのです。
その2
夫が髭剃りをしたいと思った時、左手を「グウ」にして、口の周りに持っていって手を回した。
つまり、ジェスチャーでえむこに伝えることができたのです。
初めてのジェスチャーによるコミュニケーションでした。
嬉しかったな~
「失語症の回復は難しい。2年経過するとそれ以上は・・・」と回復期リハビリ病院の医師に言われたけど、きっと「まだまだ回復する」と信じてるえむこです。
|