夫は30年近く、自宅を事務所にして建築設計業を営んでいました。儲かりはしなかったけど、建築設計の仕事はとっても好きだったと思います。
でも2年前、脳出血で倒れ、沢山の後遺症が残ってしまったので仕事を続けることができなくなりました。
夫が退院後は事務所として使っていた部屋で日中を過ごすのが最善だと思い、入院中に床を張替えたり敷居を外したり、他の部屋も含めて最低限のバリアフリーにすることにしました。
そのためには室内の配置換えをしたり、物の整理が必要だったのです。
事務所にしていた部屋は机、打合せテーブル、椅子、書類ケース、本等々の物で溢れ車いすでは動きが取れない状態でしたから。
でも、仕事ができなくなったからといって、夫のものをやたらに処分することはできないのですよね。
まずは書類ケースやプリンター3台、それに本棚等も別の部屋に移動させ、打合せテーブルは処分しました。
あと、沢山の本とカタログ。
「カタログは毎年新しいものが出るから」と夫に言って処分しました。
雑誌は夫が見たら処分できなくなると思ったので、夫が入ることのない離れの部屋に移しておき、夫に聞いてから処分しました。
これも、夫にとっては一つの諦めだったと思います。
だって、例え雑誌といえども付箋がいっぱい付いていて勉強した形跡が残っていたからね・・・
彼の歴史に他ならないと思うのです。
でも、本類はなるべく残すようにしたのですよ。構造の本、配筋の本、監理の本等々、今後まず使うことがないだろう思う本であってもね。
次の諦めは年度末でした。
建築設計事務所は年に1回、事業報告を出さなければならないのです。もちろん「実績なし」で出せばいいことだけど、今の制度では研修を受けて更新しなければ続けることはできないのです。
夫の場合、平成26年までは大丈夫だったけど、今の現状では研修を受けることもできないから、どっちみち廃業を余儀なくされるのは確実なのです。それで、夫に話し廃業届を出しました。
そして今回、加入していた職業団体を退会することにしたのです。退会届を書きながら「これでもう再加入することはない」と思うと、えむこが夫の歴史に幕を引いてしまったようで辛かったですね。
ホントはまだまだ諦めなくてはならないことが沢山残っているのですよ。
例えば、物置にとりあえず置いておいたドラフター(製図台)を処分すること。
夫はPCで図面を書いていたけど、建築模型を作る時だけドラフターを使っていたのです。もう絶対に模型を作るなんてことはないからね。
でも、これを処分することはまだ話せないでいるのです。
そうは言っても、自分たちの世代で処分しておかないと息子たちが困ることは明白だから、近いうちに夫に話さなくてはと思っているのです。
その次は何を諦めるのかしらね・・・
夫と散歩に行くと、季節の移り変わりや花にも興味は示すけど、一番興味を示すのは建築現場や新しい建築物だから・・・
ゆっくりゆっくり、ひとつひとつ、二人で諦めていこうと思っているのです。