修学旅行以外、初めて電車で遠くへ行ったのは高校3年生の時。受験のためだった。
私は小学生の頃、東海道本線で4つ目の駅にある叔母の所までは行ったことがあったけれど、それ以上遠くには行ったことがなかった。もちろん、泊まることもなかった。
最初の受験地は名古屋で1泊2日だった。
通えない距離ではなかったけれど、一緒に受験した友人の伝手で受験校の寮に泊めてもらった。他の受験生には申し訳ないような話だけれど、そこは自治寮で、しかも知合いは最上級生だったので、泊めてもらえたのだと思う。
同じ県内とはいえ、私は名古屋に行くのは初めてのことだった。だから、東海道本線で反対側に4つ目の駅までしか行ったことがなかった私は、自分なりに十分下調べをして出かけた。初めてのことで心配でたまらなかったから・・・
ただ、その時は友人2人と一緒だったので、心配する必要がなかったみたいで、難なく行くことができた。だからか、この時は旅行という気はしなかった。もちろん、近かったということもあるけれど。
次の受験地は広島で、同じく1泊2日だった。この時は正真正銘、自分一人だった。
最近では子どもの受験に親が付いて行くと聞く。だけど、当時の親はそんなことはしなかった。電車の切符を手配するのも、宿を決めるのも全て自分。行くのも当然、自分一人だった。
だから、例え交通公社とか日本旅行とか近畿日本ツーリストとかに行き、依頼するだけだったとしても、これがホントに初めての一人旅だったのだと思っている。
とはいえ、電車に乗って宿に行き、後は受験場に行っただけで、他にはどこにも行かなかったのだから、旅といえるかどうかは分からないけれど。
次は高校の友人との卒業旅行。まだ、卒業旅行なんていう時代ではなかったけれど、誘ってくれる友人がいて、初めての観光旅行で京都に行った。
何処に行ったのかはっきりとした記憶はないけれど、清水寺と祇園界隈に出かけたことだけはしっかり覚えている。清水寺の参道で買った清水焼のブローチは今も持っているし、舞子さんと一緒に撮った写真もアルバムに貼ってあるから。
だから、旅行といえるのは、この時が初めてだったのかもしれない。
自分一人で切符の手配や宿の手配をするというような、そんな経験をすると、遠くに出かけることも平気になってくる。
高校卒業後、私は名古屋の看護学校に入学した。高校時代と違い、ちょっと大人の仲間入りをした気分で、その後はいろんなところに行くようになった。
そして、電車に乗るのが好きになっていった。
その当時から45年ぐらいの月日が経つ。
その間には旅行に行けなかった時期もあるけれど、夫が倒れる前にはまたあちこちに出かけるようになっていた。もちろん、電車で。
夫が倒れ、退院してからの半年間は、デイケアに行くこともなく、ずっと家で介護をしていた。だけど、半年後に夫がデイケアに行くようになると、私は近くでもいいから、いつかは電車に乗りたいと思うようになっていった。
そして、東海道本線で、東ならどこまで行けるだろうか。西なら・・・ 飯田線なら・・・ と、いつも考えていた。
ただ、何かトラブルがあって帰れなくなると困るので、行くことはできなかった。夫と二人なら、そんな心配はしなくてもいいけれど・・・
だから、電車に乗る決心はつかないまま、時刻表を見たりして想像旅行の世界を楽しんでいた。
それが、9月に夫と新幹線で東京まで行った後、私の電車に乗りたいという気持ちに火が付いてしまった。
実はこの間、「絶対に行こう」と決め、時刻表を眺め、計画を立てていた。でも残念なことに、その時は台風で夫のデイケアがお休みになってしまったので、出かけることはできなかった。
私が夫のデイケアの間に行けるところには限りがある。だけど、自分一人で電車に乗って出かけてみたいのだ。
高校の時、旅行が好きだと言った社会科の先生がいた。その先生は電車に乗り、降りた駅の繁華街を歩いて、ただそれだけで帰って来ると言っていた。その時は、なんてもったいないのだろうと思っていた。せっかく電車に乗って遠くまで行くのなら、観光地に行ったり、おいしくて有名なものでも食べればいいのに、なんて。
当時は今と違って駅周辺が繁華街の時代だった。だから、社会科の先生は繁華街を歩くことでその土地柄や時代、社会情勢を感じ、それに興味を持ちながら、楽しんでいたのではないかと、今では思うけれど。
私はただ、電車を見るのも乗るのも好きなだけ。乗り鉄だとか、撮り鉄だとかいう、鉄道ファンというわけではなく、ただ好きなだけ。
ホントはこの近辺なら、飯田線とか高山本線、中央線、関西本線みたいなちょっと車窓からの眺めが違う電車に乗りたいけれど、今はそれより、どの電車でもいいから乗りたいと思っている。
夫と二人で出かけるのも悪くない。でも、それは新幹線でないと難しいかも知れないと思う。だから今は、夫には悪いけれど、一人で乗ってみたいのだ。