えむこの雑記帳 ~ときどきひとり言~

これは、脳出血後たくさんの後遺症が残ってしまった夫とえむこの何気ない日常生活を書き留めたものです。

認知面の回復

何日か前、夫の先輩Kさんが甘夏のようなミカンのような果物を持って来てくれた。名前は聞いたけれど忘れてしまった。

Kさんの奥さんの実家はみかん農家なので、そちらから頂いたそうだ。

 

夫はKさんからその果物の入ったビニール袋を受け取ると、左手で中から一つ取出し、顔の前であっちを向けたりこっちを向けたりしながらしばらくのあいだ眺めていた。

私が「絵を描くの」と聞いてみると頷いたけれど、眺めただけでそのままビニール袋に入れてしまった。なので、描かないのだろうと思い、それから毎日、夕食後に一つづつ皮を剥いてはおいしく頂いた。

 

この間、それが最後の一つになった。

それで「これが最後だよ」と言い、皮を剥こうとすると、夫は「よこせ」というように、手のひらを上にして左手を出した。

で、私が渡すと、頂いた時のように顔の前であっちを向けたりこっちを向けたりして眺めはじめた。そして、テーブルの上に置きしばらくのあいだ眺めていた。

私が「食べないの?」と聞くと頷き「絵を描きたいの?」と聞いてみると、やっぱり頷いたのだ。

 

絵を描くのは年賀状以来。

私や他の人が描くように誘導したわけではなく、自分から描きたいと意思表示したのは倒れてからは初めてのような気がする。

だけど、夫は、いくら自分が描きたいと思っても、私が道具類を準備しなければ一人で描くことはできないのだ。

 

で、昨日の午前中、私は朝の家事を終えてから、夫が絵を描けるようにと準備を整えた。

すると、夫は真剣な眼差しで果物を眺め、描きはじめた。

だけど、悲しいかな高次脳機能障害

筆の使い方は少しづつは良くなってきたけれど、声をかけなければ筆に墨を含ませずに描こうとしたり、途中で墨が切れてもそのまんま。絵の具や水も同じなのだ。

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これは何枚か描いたうちの一枚。

ホントは字が書けるともっといいのだけれど、今の段階では練習してみたけれど残念ながら書けなかった。

だけど、字がなくても、人から見れば上手くもなんともない絵かも知れないけれど、これは私にとっては涙が出る程感動する絵なのだ。

 

夫はこれを「Kさんに出して欲しい」と言う。もちろん、言葉は話せないけれど、私にはそう言っているのが分かるのだ。

 

夫が倒れる前は原画で絵手紙を出していた。当時は同じ絵を10枚ぐらい描いていたのでいつもそうしていた。だけど今は、何枚も描くことができない。だから、原画をスキャナでPCに取り込み、印刷して出すようになった。

 

夫は印刷ではだめだという。私は自分に欲しいから原画では出したくないと言う。

それでも、夫は笑いながらやっぱり原画で出してと・・・

もちろん、私は夫の気持ちを優先するつもりではいる。

だから、夫には「私のためにもう一枚描いて・・・」と言ってみた。

返事は笑いながらもちろん頷いた。描いてくれるかどうかはわからないけれど。

 

最近の夫を見ていると、言葉は相変わらず話せないけれど、認知面での回復はかなり良くなってきたと感じている。

たくさんの刺激や感動。それが夫の認知面の回復につながっているのだろう。

話すことができなくても、夫のもとに来てくれる人たちに感謝、感謝だ。

例え、私のためにもう一枚描いてくれなかったとしても、やっぱりKさんには原画の絵手紙を出さなくてはと思っている。