えむこの雑記帳 ~ときどきひとり言~

これは、脳出血後たくさんの後遺症が残ってしまった夫とえむこの何気ない日常生活を書き留めたものです。

初めてのショートステイ

夫が脳出血で倒れ先月末で12年が過ぎた。

半年間の入院生活を経て自宅介護が始まったのが2011年の4月初め。何度か書いているけれど、退院後半年間は訪問リハビリと訪問入浴だけを利用し、デイケアやデイサービスを利用することはなかった。

それだけだと夫を一人にして置けないので買い物と美容院に困った。当時は1時間以上お昼寝をしていたのでその間に一番近いスーパーに行き、美容院は1度だけカットしてもらった。

それで義姉と義弟が「デイケアに行ってリハビリをしてもらおう」と夫を説得し、訪問入浴をやめ、週に2回デイケアに通うようになっった。(何年かして週3回にし、現在に至る)

 

夫が倒れる前、夫の母と同居していた。

義母は90歳になったころから介護が必要になったけれど、介護は自営業だった夫がほとんど行い、デイサービスに行くことはなかった。

そこまでデイサービスを利用しなかったのは本人も行きたがらなかったし、夫も夫の兄弟たちも家で過ごさせたいという思いが強かったから。どうしても夫が仕事でできないときには義姉に頼んだり、私が手伝ったりしていたので在宅でも困ることがなかったのだ。

だけど、夫の仕事がかなり忙しくなったため、倒れる1か月前からデイサービスに行くようになった。そして、夫は義母が92歳の誕生日の翌日に倒れた。行き始めたらすぐに夫が倒れてしまったのだ。

 

当時私はまだ仕事をしていた。仕方なく、義母は老健を探すことにし、ショートステイを使いながら私と義姉で介護を担った。

 

義母は我慢強い人で愚痴も言わなければ人の悪口も言わない人だった。夫には怒ることはあっても私に怒ったことは一度もない。

その義母がショートステイで心無い言葉を浴びせられた。

義母は仕方がないと言いながら、言われた言葉を淡々と私に話した。気の毒で、かわいそうで、涙が溢れたけれど、私はショートにもケアマネにも抗議することができなかった。他にも夜間の排泄で辛い思いをさせてしまった。

 

そんなことがトラウマになり、夫にショートステイを使わせようとは思わなかった。

夫は言葉が話せないから、義母のように私にさえも話すことができないし、当然自分で抗議することもできない。障害者施設での虐待報道を見聞きすれば猶更のことだった。

夜間の排泄も家ならば私の介助で汚すことはないのだけれど、ショートステイを利用すれば夫のような状態では当然のようにおむつになり、時間での交換になる。

 

しかし、私に何かあった時、例えば転んで骨折をして入院が必要だとか、心筋梗塞脳梗塞などなど、緊急事態が起きたときに夫自身はもちろんだけど、子どもたちも困ることは目に見えている。ショートを利用していれば、超緊急時にはケアマネが当日は無理としても翌日からは何とかしてくれると思う。ショートステイは最大で30日までは連続で利用できる。子どもたちはその間に老健なり老人ホームを探すことができるだろう。そう簡単には探せないかもしれないけれど。ショートステイを一度も利用したことがなければもっと大変だろうことは想像できる。でも、前述の理由からどうしても嫌だった。

 

7月末から夫は発熱し、倒れて12年目にして初めて入院しなければならない事態になった。

急性期の総合病院だ。コロナ禍で面会は禁止。当然のごとくベッド上の生活を余儀なくされた。1日に1回、リハビリとして10分程度車いすに座ることがあっても残りの時間はベッド上。食事の時には座位になることがあってもベッド上。夜は当然のごとくおむつでの排泄だ。

そんなことがあり、ショートを利用したときに夜間の排泄がおむつになることに諦めがついた。1泊2日なら1晩だけの我慢だ。ショートを始めるなら入院生活を終えたばかりの今しかない。

そう思って夫に話してみた。夫は黙って私の話を聞き、ショートステイに行くことを受け入れてくれた。そして、夫の負担が少なくて済むように月に一度、水曜日に行き、木曜日に帰宅するよう(水・木はデイケアの日なので)にケアマネに依頼した。

 

そして9月21日、22日に初めてショートステイを利用した。翌23日は秋分の日で訪問リハビリは休みなので帰宅後、金・土・日と家でゆっくりと疲れが取れるようにと。

 

夫がショートステイに行けば私も休養ができる。帰宅時間を気にせずに出かけることだってできる。はずだった。

だけど、何だか落ち着かない。初めての環境で、初めての介護者たち。話せない夫は困っていないだろうか。話せない夫に介護者たちも困っていないだろうか。大丈夫だろうか、嫌だったんじゃないだろうか・・・と。

まるで子どもたちが始めて保育園に行った時のように。

 

そして、2日間が過ぎた。

帰宅時、険しい顔はしていなかったのでちょっと安心した。もう絶対に行きたくないという顔ではないと思ったけれど「どうだった。嫌じゃなかった?」と聞いてみた。

当然、言葉での返事はない。空を仰ぐようなしぐさをしたので今度は「嫌だった?」と聞いてみると首を縦に頷いた。

だけど、来月も行けるかと聞くとこれも頷いた。

 

後日、訪問リハビリの理学療法士(PT)さんが私と同じようにショートステイのことを聞いた。その時も同じ答えが返ってきたのだけれど「いやだけれど、奥さんのために行くの?」と聞くと、やっぱり頷いたのだ。

私は、私に何かあった時に夫自身が困らないように、子どもたちが困らないようにと思っていたのだけれど、夫はそれに加えて私のためでもあるとショートに行くことを受け入れたのだ。

命の限りがはっきりとわかっていて、私が先だったり介護ができなくなるのだったら事前にホームを探しておくし、夫が先で私が介護ができる状態ならば最後まで家で看取るのでショートステイを利用しなくてもデイケアだけで十分なのだけれど。悲しいかな命の限りは神のみぞ知る。

ということで、今月も1泊2日でショートステイに行く予定でいる。