えむこの雑記帳 ~ときどきひとり言~

これは、脳出血後たくさんの後遺症が残ってしまった夫とえむこの何気ない日常生活を書き留めたものです。

想像の翼を広げて

夫が嫌がらずにデイケアへ行けるようになってから、私は一人で電車に乗りたいと思うようになった。それまでは夫と二人で出かけることばかりを考え、一人で出かけることなど諦めていたのだけれど。

まあ、デイケアに出かけたからといって私の自由になる時間は6時間が限度だ。それに電車は何らかの理由で止まってしまうこともある。車で出かけても事故に遭わないとは限らないけれど、電車の方が何かあった時には夫の帰宅時間までに戻れない可能性が高い。そう思うと未だに1人で電車に乗ることができないでいる。

 

それでも何度か電車で出かけようと計画を立てたことがある。

始めは去年の9月。浜松市美術館へ「やなせたかしアンパンマンのキセキ展」を観に行く計画。夫と出かけるならば車だけれど、夫は行きたいとは言わなかった。だから電車で行こうと思ったのだ。

二川駅の横の駐車場に車を止めて、何時何分のJR東海道本線に乗り、浜松駅からはバス。美術館では1時間半ぐらいあればいいだろう。そうすればいつものように買物をする時間もある。浜松ではあそこに寄って、ここで昼食を食べて・・・と、何日も想像しては楽しんだ。

そして最終日に行く予定を立てた。その日にしか行けそうもなかったからだけれど、その日は残念なことに台風が来てデイケアがお休みになってしまったのだ。それで私の計画は想像の世界だけで終わってしまった。

 

次に計画したのは去年の冬。

偶然見ていたテレビのクイズ番組で天浜線浜名湖佐久米(さくめ)駅が出ていた。天浜線というのは昔は国鉄二俣線だったけれど、今は天竜浜名湖鉄道のこと。浜名湖の北側を通る全長67.7㌔の路線だ。

浜名湖佐久米駅は浜名湖畔のすぐ際に駅舎があり、冬の間はユリカモメが電車を迎えてくれるという。そして、それを見るために2分間だったか電車が停車するらしい。

天浜線はとても魅力的な電車だと思う。駅舎など国の登録有形文化財も多く、昭和のノスタルジックな雰囲気をたっぷり味わえるのだ。

私の計画はその浜名湖佐久米駅まで行き、そこから東名高速度道路の浜名湖サービスエリアまでの散歩コースを歩き、そこで昼食を摂り、戻るというもの。

JR二川駅横の駐車場に車を止め、何時何分の東海道本線に乗り、次の新所原で降りる。そして何時何分の天浜線に乗換える。帰りに時間があれば天浜線新所原駅にある喫茶店でお茶を飲もう。何時何分の電車に乗ればいつものように買物もできるはず。

この計画を友人に話した時、友人も行きたいと言った。それで、友人と二人で行く予定を立てたのだけれど、友人が風邪をこじらせ、2度ばかり延期した。だけど風邪は一向に良くならず、そのうち冬が終わり、結局その計画は中止することになったのだ。

まあ、想像して楽しむだけは楽しんだのだけれど、本物の電車には乗れなかった。

 

この間、新聞にJRの広告が入っていた。

『グルメ&ショッピング! 名古屋へ気軽に新幹線で行こう。』というもの。

通常、名古屋往復は快速までなら平日1860円(土日は1540円)、新幹線で往復すると平日2880円(土日は2320円)だ。それが「タワーズパック」というものだと新幹線往復切符にタワーズで使える食事・商品券1000円分が付いて2960円なのだ。ただし8月31日までの期間限定商品だ。

私は心が動いた。買いたいものがあるわけではないしJRの鈍行の方がいいけれど、新幹線も悪くないから。

広告を片手に、ネットで時刻表を引っ張り出して、もう想像の世界に突入だ。

夫がデイケアに出かけてから駅までは車で行けば何時何分には慌てなくても乗れるはず。名古屋には10時30分前には着ける。帰りは何時何分に乗れば、家には何時何分には戻れる。夫の帰宅までには十分時間がある。そして名古屋では3時間は遊べる。あそこに行って、ここも・・・と考えるだけでも楽しい。

だけど2960円+駐車料金1200円。計4160円は必要だ。「電車に乗りたい」という気持ちだけで、自分自身にそれだけのお金を使うのが何だかもったいなくなってしまった。その上やることはいっぱいある。

そう思い出したらもう行けない。

今回も想像の翼を広げるだけ広げてお終いだった。

 

花子だったらきっと言うと思う。「諦めてはだめよ。今は行けないかもしれないけれど、想像の翼を広げて電車に乗っている夢を見続けるのよ・・・」と。

そうすればきっと一人で電車に乗れる日は来ると思う。今までに計画したぐらいの距離ならば。だから、それまでは想像の翼を広げるだけ広げて電車に乗っている夢を見続けようと思う。それだけでも楽しいのだから・・・