定年を数年後に控えた頃から老後の生活をイメージするようになった。私にとって、老後の生活というのは65歳を過ぎてからのことだった。それまでは再雇用制度を利用して働く予定でいたものだから。
憧れは晴耕雨読の生活だ。
晴れた日には畑にした庭で家庭菜園を楽しもう。たまにはカメラを持って、地元の花の名所を訪ねるのもいい。
雨の日には読書とレンタルのDVDを見よう。本はそれまでと同じように2週間に1度図書館へ借りに行く。そして、その日は図書館で半日過ごし、雑誌類はそこで心置きなく読む。我家の購読紙以外の新聞を読むのもいい。
観たいと思う展覧会には足を運び、コンサートや演劇も楽しもう。
青春18きっぷの時期にはそれで鈍行に乗り、何泊かの旅に出よう。青春18きっぷのない秋には特急に乗って出かけてもいい。夫はスケッチブック、私はカメラを持って・・・
カメラは一眼レフのいいカメラを買って、基本的なことは習いに行こう。等など。ま、他にも思うことはたくさんあったけれど、そんな生活を夢見ていた。
その頃、子どもたちは独立し、借り入れていた教育資金の返済も終わり、金銭的には一番楽な時期だった。だけど「老後の資金を貯めなければ・・・」という思いも強かった。それでも、すぐ近くに迫っている老後の生活を考えると「働いているうちに少しづつ買い揃えないと・・・」と、思ったのだ。それまでは「働けど、働けど・・・」の生活で、モノを買うゆとりなどなかったから。
それで、老後に向けていろいろ買った。もちろん何年計画で。
先ずは、アナログ放送が終了するため、地デジ対応の大きなテレビを買った。ビデオデッキが壊れていたのでブルーレイディスクも買った。テレビの録画もしたかったけれど、DVDやブルーレイで映画を見たいと思っていたから。
私たちの旅行は風光明媚な所より、美術館や建築物を見たくて行くことが多い。そんな旅行のためにビデオも買った。建築物は写真で見るよりビデオの方が絶対に分かりやすいと思ったから。
そして、近場で遊ぶ時のために自転車も2台買った。
他にもいろいろ買ったけれど、ただ一つ買いそびれてしまったものがある。それは一番楽しみにしていた一眼レフカメラだ。
夫は以前から絵を楽しんでいた。私は絵が描けないので、夫が絵手紙を描くと、私はそれを使って友人に出していた。
だからずっと、私は一眼レフのいいカメラで花や鳥や景色の写真を撮り、それで絵はがきに作りたいと思っていた。だけど、先にも書いたように基本的なことを習いたいと思っていたので買う時期を逸してしまったのだ。
そんな老後を描いていたのだけれど、人生は思うようにいかないものだ。夫がその前に倒れてしまったのだから。思い描いていたことの多くが、金銭的なことも含めてだけど、できなくなってしまった。
今、日常の生活費は年金支給分で賄っている。まだ満額支給ではないので不足分は預金から下しているけれど、満額支給になれば、2人分を合わせれば何とか生活していけそうだ。もちろん、贅沢はできないけれど。
そして、我家には近いうちに少しばかり臨時収入の予定がある。以前、書いた夫の両親の年金修正分と私の終身保険の生存時保険金だ。
臨時収入が入ったら、私はカメラを買ってしまおうと思った。今買わなければ、もう一生手に入れることはできないと思うから。
それでだいぶ前から、どのカメラを買おうかと検討していた。でも、どれがいいのか私にはよく分からないのだ。そんな時はいつも兄が私の相談役だ。今回も一緒にネットで調べ、いろいろ教えてくれた。それからもう1か月以上経つけれど、私はまだ買っていなかった。
すると今日、兄から「もうカメラ買った?」と電話があった。まだだと答えると、兄は自分のカメラを安く買う気はないかと聞いてきた。兄は今2機の一眼レフカメラを持っている。そのうちの1機に基本レンズとズームレンズを付けるからどうかと。
兄が使っていたカメラならば、古くても、私はそれだけでOKだ。もちろん、値段もタダにちょっと毛が生えたぐらいだったし、分からないことがあっても安心だから。
兄は電話を切ると、すぐに持って来てくれた。だから今日、私の手元に念願の一眼レフカメラが届いたのだ。「うれしい!! うれしい!! うれし~い!! 」と、私は叫びたいぐらいうれしくてたまらない。
もう夕方だったので、窓から庭の石臼の写真を1枚だけ撮ってみた。何だか違いがよく分からないけど・・・
これからいろいろ写してみようと思う。そして、前々から楽しみにしていた絵はがきを作ってみよう。上手にできたら友人にハガキを出そう・・・
何だか楽しみが増えてホントうれしくなってきた。