夫は緊急手術を受けたあと、ICUに一週間いた。その頃はまだ意識がはっきりしておらず、目を開けても私のことは分からない様子だった。その後、脳外科病棟に移され、徐々に意識は戻っていったのだけれど、今思い返すと、急性期病院に入院中は果たして私のことを分かっていたのだろうかと思うことがある。当時は分かっていると思い込んではいたのだけれど。
あれから3年8か月と12日。このところ、夫の反応から認知面の回復を感じることがよくある。だから、当時は分かっていると思っていたことがほんとに分かっていたのだろうかと思うのかもしれない。
夫の認知面の回復を助けたものはやっぱりたくさんの刺激だったと思っている。
友人が来てくれること。それだけでも十分刺激になっている。そして、昔話をしてくれることが記憶を呼び覚ますことに繋がっているのだと思う。もちろん、デイケアに出かけることも、好きだった絵を観に出かけて感動することも、外出することも、そうだと思うけれど。
この間、友人から「近々、飛騨古川に1泊で行ってくる」と聞いた。
私たちも夫が倒れる前に行ったことがある。高山には何度も行ったけれど、古川まで足を延ばしたのは一回だけ。でも、白壁や土蔵の雰囲気が気に入り、二人でのんびりと街歩きをした記憶が甦ってきた。
で、夫に友人が古川に行くことを話し、私たちが出かけた時の写真を一緒にスライドショーで見返してみた。
この時は青春18きっぷで出かけたと思う。
特急で行くこともあったけれど、やっぱりごとごと揺られ、のんびりと行く鈍行がいい。
高山駅から3駅先の古川駅。
下の方には見るに堪えない私の姿が写っているのでそこはカットしておいた。
あそこにはこんな看板があったよね・・・
ここはあの辺りだったね・・・
駅の近くにあった彫刻。こういう作品、好きだね・・・
あと、和ろうそくのお店に行ったし、あの絵ハガキもこの辺りで買ったよね。そうそう飛騨牛コロッケも食べたじゃない。おいしかったよね、あのコロッケ・・・
そんな会話を交わしながらスライドショーで写真を見ていると、言葉はなくても「うん、うん」と言わんばかりに、にこにこしながら頷いている。そんな夫の反応を見ていると、私にははっきりと記憶が戻っているように感じられるのだ。
で、「高山なら行けると思うよ」と言ってみると、また頷いた。
こうしたことも刺激、刺激。
私には、また一つ記憶が呼び覚まされたように感じる嬉しいひと時だった。
で、今度出かける時には、そんな記憶を呼び覚ます旅がいいかも・・・と、思い始めたのだ。
これはその時に夫が描いた絵手紙。