J子さんの家には月下美人の鉢植えがあり、毎年見事に花を咲かせている。
夫が倒れる前は「咲いているから見に来ない?」と電話をしてくれたこともあったけれど、月下美人の花は夜に咲き始め、翌朝には萎んでしまう花。
私は電話を貰った頃には大抵アルコールが入っていた。仕事から帰ると、夕食を作りながら夫と二人で缶ビールを飲み始めるという、ほぼキッチンドリンカーの状態だったから。まあ、飲むと言っても缶ビール1、2本程度だから、大して飲んでいるわけではないけれど、歩いていくにはちょっと遠いし、飲んだ後では出かけるのも億劫だ。それで、一度も実際に咲いているところを見たことがない。でも、J子さんはいつもメールに画像を添付して送ってくれるので、それを見て楽しませてもらっている。
月下美人が食べれる花だと知ったのは、去年か一昨年のこと。それもJ子さんが教えてくれた。
J子さんの家の月下美人は今年は2回も咲いたそうで、画像付きのメールをくれた。直径23㎝もある大きな花だったそうだ。そして、その花を酢の物にしたから私にもおすそ分けしてくれるというメールだった。
夫はいつもお昼寝をするので、その間に貰いに行き、早速夕食でいただいた。
我家では月下美人を食べるのは初めてのこと。
夫は酢の物が大好きで、新しいものも喜ぶタイプ。最初に手を付けたのは月下美人の酢の物。そして、全て完食した。よっぽどのものでなければ残すことはない人だけれど、完食したということはおいしかったのだろうと思う。言葉で表現できないからどう思ったのか分からないけれど。
私も酢の物は好き。だけど、夫と違い、新しいものには慎重なタイプ。見た目は大丈夫だけど、少し香りがする。箸でつまむと何だかネバネバ、ヌルヌルしている。ネバネバは体にいいかもしれないと、恐る恐る口に運んでみた。
J子さんは無味無臭だと言っていたけれど、私の印象はちょっと香りが気になる感じ。決しておいしいとか好きになった、ということはなかった。もちろん、食べれないことはなく、全部いただいたけれど。
夜になって、月下美人の食べ方をネットで調べてみた。
すると、結構いろんな料理法があることが分かった。さっと湯がいて生姜醤油で食べる。天ぷらにする。ベーコンと炒める。もちろん酢の物もあった。
今度J子さんに会ったら、他の料理法のことも話してみようと思う。きっと、それだけで話が盛り上がりそうな気がするから。
今日、私は夫共々、この年になって人生初の経験をさせてもらった。
お裾分けしてくれたから味わえた月下美人。
味よりも何よりも「こういった経験が夫の全身に刺激を与え、いろんな感性を目覚めさせてくれるかも知れない」なんて、期待じみたことまで考えてしまった。